[speech position="左" name="りょうちゃん" content="こんにちは、建築設備とロックを愛する男、りょうすけです。"]
私の専門の「建築設備」は、空気・水・電気の配備など、普段は注目されることのない、バンドでいうならベースやドラムのような存在。
しかし、時代は変わり、省エネへの注目が上がり、2015年にはSDGs(持続可能な開発目標)が採択された中、建築設備が注目され始めているのをご存知だろうか?
そう。今、建築設備が熱い!!!!!!
そこで、この連載では、過去の設備士が行ったエポックメイキングな名建築のエポックな設備に注目したい!
第二回目は菊竹清訓設計「都城市民会館」。
[linkcard url="https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190723-00010000-mrt-l45"]
昨今、保存・活用と取り壊しで議論されてきたこの建築。が、ついに、今日2019年7月23日、解体が始まってしまった。また一つ、伝説がここで幕を閉じることになる。
歴史そして設備を愛する建築士の一人として、最期の追悼の意味を込め、この名作を語り継ぎたいと思う。とても奇抜な外観が目を引く建築だが、本ブログ第一回に登場した井上宇市による設備設計であることはあまり知られていない。
そこには「透明なダクト」が存在し、「見えない空気を見せる」粋な設備が仕掛けられていたのだ。
まさに怪獣? 都城市民会館の驚きの外観
まず設備を見ていく前に、都城市民会館を建築物としてじっくり見てみよう。
何と言っても目を引くのは、その特殊な形状のインパクト!!!!!
今にも動きだしそうな、まるで怪獣?のような形をしている。
(筆者はゴジラシリーズのアンギラス!かと思った。)
鉄筋コンクリートの下部構造の上に、鉄構造の屋根を架ける。いわば、「変わらない部分」に「変わる部分」を重ねた構造だ。
これは菊竹らが取り組んだ建築運動「メタボリズム」の思想にものっとっているとも言える。
「メタボリズム」とは人口増大や技術発展に呼応して更新される都市成長を説く建築運動のことを言う。
この扇のような形状にいたったのは、地盤が悪く、できるだけ柱・杭を少なくしたいという想いからだと言われている。
今後、同じような建物はおそらく作られることは無いだろう。唯一無二の建築と言っても過言ではない。
透明なダクト 見えない空気を見せる仕組み
本題の建築設備について見ていこう。
先述したように、設備設計はレジェンド井上宇市。前回に引き続き、こちらの建築にも度肝を抜く仕掛けが組み込まれている。
(出典:磯達雄、宮沢洋『菊竹清訓巡礼』日経BP社、2012年)
まずは、写真にある無柱の大ホールへの空調が必要になってくる。こういった大空間の空調は、ダクトの設置や機器の設置が非常に難しい。
その問題を解決するために、取り入れられたのが「バズーカ砲」である。
本ブログの1記事目にも同じ設備を紹介しているので詳しくはそちらを見てほしい。「バズーカ砲」は井上の代名詞になりそうだ。
さて、この建築特有の設備は何か。
それは「透明なダクト」である。
ダクトとは空調された空気を、空調機から各部屋へ搬送するときに利用する、「空気の通り道」だ。通常は上の写真のように鉄板やグラスウールで作られ、ピカピカした光沢がある金属的なイメージが強い。
(出典:磯達雄、宮沢洋『菊竹清訓巡礼』日経BP社、2012年)
ところが、都城市民会館では、おそらくアクリルで作られたと思われるダクトが利用されている。
見た目は透明で、中が透けて見えるのである!!
通常目には見えない空気が可視化されたような錯覚にいざなわれる。
素材がアクリルならば、厚みを変えられるため、表面の結露を起こさない厚さを計算してダクトにできそうだ。
また、部材と部材の結合部も透明なまま接着あるいは融着できそうなため、透明な状態を実現しやすい。
では、一体なぜ本物件で、井上と菊竹は透明なダクトを実現したのだろうか。
そもそも建築の業界では「設備は隠されて当然」と考えられていた。
透明のダクトを設置したのは、そんな当時の常識を覆すため、あえて見える部分に設置するという粋な計らいであったのだ。
さらに、目に見えない空気すらも目に見えるものにしようとする、いわば設備に「思想」を込めていたのである。
現代の設備士である筆者も、今回の設備を見て度肝を抜かれた。現在の設備設計では、利便性や省エネなどの機能的な思想は込めるのだが、「設備がどう見えるか?」などといったような意匠的な思想を込めることは、ほぼないからだ。
都城市民会館は、特徴的な形態ばかりに目が行きがちだが、設備と意匠の融合、そして設備に新しい思想を吹き込む、といった点で、とてもエポックメイキングな建築なのである。
まとめ
特徴的な外観、そして思想を込められた設備、いかがだったでしょうか。
外観が先行して話題になる建築でも、その裏ではしっかりと設備士が支えている。
そして、意匠の菊竹が設備に対しても実現させたい想いを持っていたことが感じられ、割り切った分業からは得られない設備が実現されていた。
冒頭にも述べた通り、非常に悔やまれるが、この都城市民会館は本日取り壊しが行われる。
しかし、おもしろい動きがある。クラウドファンディングにて支援を募り、3Dスキャンにて建築をデータ化して残そうという動きだ。
開始からたった2日で必要資金を集めた結果を見れば、この建築がどれだけ愛されていたかが分かるだろう。
本建築に込められたのは「当時の常識を打ち破りたい」とする革新的な想いだ。
現代に生きる設備設計士として、この亡くなりゆく名作のバトンを引き継ぎ、「設備に思想を込める」ことを体現していきたい。
井上宇市は大正7年生まれ、東大卒。1946年から大成建設に入社し、設備設計と関わってきた。1953年から早稲田大学で教鞭をとり、1989年定年退職した後も、長きにわたり設備設計に従事。日本の建築設備設計に多大な影響を与えた一人者であり、現代建築設備設計の先駆者です。
環境設計部統括/一級建築士。東北大学卒業、同大学院修了。(株)大気社、(株)イズミシステム設計を経て、NoMaDoS一級建築士事務所 を設立、取締役に就任。専門は、建築設備設計、省エネルギー計画。また省エネルギー届出・適合性判定・CASBEE届出の申請業務、ZEBコンサルティングなども展開。
▶︎前回の連載記事はこちら
知られざる名建築の裏側 代々木体育館の空調を支える「バズーカ砲」とは
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